船釣りに未来はあるのか?

ここ数年、特にコロナ禍の影響により野外で行われる趣味に注目が集まりました。

その際たるものがキャンプや登山、そして釣り等のアウトドアです。

もちろん我らが船釣りにも新しいファンが入ってきてくれていて、その発端が何であれ有り難いと感じています。

とは言え、急激な入門者の増加はそもそも自然環境に依存して行われるアウトドアにおいてはしばしば問題を起こすもの。

立ち入り禁止エリアへの侵入やゴミの問題はアウトドアがブームになる度に起こります。

しかし、情報発信のツールが急速に発達した現在、これまでとは違った問題が発生するようになりました。

そしてこの問題は、どうやら今後の船釣りにも少なからず影響を及ぼしそうです。

ということで、今回はいつもと少し趣旨を異にしますが、最近特に感じる船釣りの未来への危惧について考えてみました。

●同調圧力とSDGS

以前からアウトドアの趣味には一定のサイクルでブームが訪れます。

そして、その際に必ず問題になるのがマナーの悪化です。

これは時代の新旧問わずブームが起これば必ず発生するもので、ブームの落ち着きと共にある程度沈静化する、という流れを辿ります。

これまではこのような流れで一時的に社会的に問題視されますが、ある程度の期間で世の中が忘れてくれていたわけで(それが良いかどうかはさておき)、その間にボランティアの方々による保全活動等が行われるようになるなど、我々はそのような努力によって助けられている、という側面もあります。

しかし、現在私が感じている危機感は少し意味を異にします。

それはネット環境、とりわけSNSの発達という、過去には無かった個人による発信力増大によるもの。

つまり「同調圧力」や「炎上」です。

そして、これらが各業界の動きに少なからず消極的な影響を与えてしまうだろう、という思いです。

きっとこのような危機感をなんとなく感じている釣り人は多いのではないでしょうか?

例えば2015年に国連サミットで採択されたSDGSという取り組みに端を発する企業の動き。

SDGSについては今更説明することもないと思いますが、

「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」

のことです。

これには17個の大きな目標と、それらを達成するために取り組む169個の「ターゲット」と呼ばれるより具体的な目標が掲げられています。

ここで船釣りの業界に直接関係してくるのは、大きな目標の14個目に掲げられている

「海の豊かさを守ろう」

という部分でしょう。

更にこの目標14の中のターゲットには以下のようなことが記されています。

ターゲット14-2
2020年までに、海と沿岸の生態系に重大な悪い影響がでないように、回復力を高めることなどによって、持続的な管理や保護をおこなう。健全で生産的な海を実現できるように、海と沿岸の生態系を回復させるための取り組みをおこなう。

ターゲット14-4
魚介類など水産資源を、種ごとの特ちょうを考えながら、少なくともその種の全体の数を減らさずに漁ができる最大のレベルにまで、できるだけ早く回復できるようにする。そのために、2020年までに、魚をとる量を効果的に制限し、魚のとりすぎ、法に反した漁業や破壊的な漁業などをなくし、科学的な管理計画を実施する。

この他にも海釣りに関連しそうなことはいくつか書かれていますが、これに対して船釣り業界が何か具体的にアクションを取っているのか、というと今のところ特には聞こえて来ません。

なお、この記事の趣旨はこれらの目標やその中身についての賛否を問うものではありません。

最も重要なのは、これらが我々船釣りの業界に対してどんな影響を与えるのか?を考えるところにあります。

●数釣りが槍玉に挙げられる可能性

SDGSの大きなテーマのひとつは資源の持続可能な利用です。

これを海洋に当てはめると、問題視されるのは当然『魚の乱獲』になり、前述の目標が設定されているわけです。

これにはもちろん異論はありません。

しかしここで怖いのは、「実際に遊びで行う釣りが、海洋資源量に大きな影響を与えているのか否か?」という事実とは関係なく非難にさらされる可能性があるということです。

 

釣り師の間では「レジャーでの釣獲は、職漁での漁獲に比べ微々たるものでの影響は無い」と言われることが良くあります。

確かに網を使用した場合の効率性や実際の漁獲量は、我々が遊びで釣獲する量とは比べものにならないのでその通りなのかも知れませんし、私も感覚的にはそう思います。(具体的なデータ等はわかっていないのですみません)

が、実は問題はそこでは無いのです。

 

これは一言でいうと、「漁獲する行為全般に対して持たれる印象に気を付けなくてはならない」ということ。

“魚が減っている”という事実がある → 「船小物釣りというのは魚をたくさん釣ることを目標にしている」→ 「それって環境に良くないんじゃないの?」という印象を持つ →  釣りって乱獲する遊びなんじゃないの?

という単純な論法であり、これこそが釣りにも漁にも触れて居ない普通の人の感覚だ、ということで、SDGSという社会的に「正」とされる目標がある時、この印象はより補強されます。

となれば釣行に際した我々数釣り師の不用意な発信に対して “問題有り” と認定されてしまうことも出てくるでしょう。

 

また、レジャーである釣りと職漁では、発信されている情報量に大きな差が有ります。

我々の釣果はインターネットやSNSで日々発信されてたくさんの人の目に触れますが、毎日「今日はどこそこで何匹(何トン)獲った」と言った発信をしている漁師さんはあまりいないと思います。

したがって、資源の減少との具体的な因果関係を抜きに、ネットやSNS上での批判の多くが釣り人に向けられてしまう可能性は高くなりそうです。

 

そして、このようなことが多くなってくれば、釣りに関連する各企業やメディアにも批判の矛先が向けられるでしょう。

このような懸念が出てきた時に企業が取る対策で一番多いのが「とりあえず自粛」という姿勢です。

たとえ批判が根拠に基づかないものであったとしても、一部の声の大きな人(若しくはTVや新聞などの一般メディアである場合も)とそれに引き摺られた外圧を考慮して安全策を取るのが日本的な対応。

そうなればせっかく盛り上がってきた(コロナ禍による予期せぬブームだとしても)船釣り自体が縮小に向かい兼ねない、とも考えられるのです。

 

 

●このまま放置した場合に起きる悲しい未来

では、このような外圧が起こることを予想しながらも、特に対策を講じずにダラダラと現状維持で進んだ場合には何が起こり得るのか?

その最悪のシナリオが、

「” 釣り = 悪 “という認識が世の中に定着する」

というものです。

まぁ”悪”とまでは行かずとも、”一般にあまり良しとされていない” という空気が醸成されてしまうといった事態は起こってしまうかも知れません。

 

また、釣りをしていない人から見れば、狙う魚種や釣法などのディテールはどうでもよく、十把一絡げにして釣りは釣りでしかありません。

この理屈でいけば、アジもカワハギもブリもマグロも区別なく「数を釣ってはいけない」という空気感になってしまう。

ここから想定されるのは、先にも述べたように、ネット上での船釣り関連の発信が炎上しやすくなることです。

つまり、我々が愛する小物の数釣りには、特に風当たりの強い世の中になってしまうわけですね。

そうなれば船釣りに流入する人も減り、釣り業界自体がシュリンクしかねません。

 

もちろんこれは一般の釣り人にも影響していきます。

というのは、業界がシュリンクすれば釣り船が減ったり、メーカーが事業を縮小したり、釣具店が減ったりするからです。

メディアの発信も憚れるので、情報源も減ります。

 

こんな不自由な世界は、ある意味で江戸時代の「生類憐れみの令」を彷彿とさせる世の中かもしれません。

生類憐れみの令は、時の君主の鶴の一声で発布された法であり、君主以外は全員が「悪法」であると認識していたので、本人の没後は速やかに廃止されています。

しかし、これに対して現代版は一般の人々によって空気が作られていきますから、そのままタブーの認識が長く定着しそうだ、というのが怖いと感じるのです。

●『乱獲』のレッテル貼りとそれによる外圧を未然に防ぐ

では、予想される悪い状況を未然に防ぐにはどうしたら良いのでしょうか?

それには、船釣り業界として『乱獲』に繋がらないと考えられるレギュレーションを設定し周知すること、そして釣り人がそれをきちんと守るのが当たり前である、という雰囲気作りが必要だろうと思います。

 

こういうと「まずは調査から」となりがちですが、それは危険です。

もちろん、釣りものごとに実際に乱獲に繋がっているかいないか?を細かく検証することは必要かもしれません。

しかし、それを待ってからレギュレーション作りに着手するのは悠長過ぎる気がします。

それよりもまずは釣り人や船長、そして協力してくれる有識者が持っている経験と感覚に基づいて一定のルールを魚種ごと、海域ごとに設定してスタートさせてしまうことが先決ではないかと。

 

というのは、社会的に”ある大きな流れ”(この場合SDGS)が起きている中では、実際の影響の有無よりもまずはその印象によって善悪のレッテルが貼られることがとても多いからです。

ですから、時間の掛かる調査を待っている時間はあまり無いと考えて、同時進行でルール作りに動き出した方が得策なのではないか?

まずは設定してそれを実行していれば、批判が起きた際にはきちんと説明をすることが可能になりますし、それが準備されていれば炎上には繋がりにくくなるでしょう。

調査の結果が出た時にルールに問題が有れば追加や訂正をすれば良いですし、尤もな指摘はきちんと精査して、どんどん改定していけば良さそうです。

そのルールを具体的に作るとしたら、まずは『乱獲』していないことをアピールできる内容が最優先となります。

 

ここでのポイントは

・魚種ごとの数量の制限

・釣期の制限

等でしょう。

 

数量制限の”数量”は釣る数ではなく「持ち帰る数=殺して良い魚の数」の設定かと思います。

ですからここで一度、”釣りをするという行為”と”食べること”を切り離します。

数の制限が必要な魚種は、きちんとしたリリース方法を周知することが急務であり、また、リリースしやすい環境(船内の循環水や大きめの桶などの設備)を整える必要があります。

もちろんリリースが難しい魚種もあるでしょう。

そうだとしても、本当に無理なのか?実は方法があるのではないか?を専門家の意見や、多くの釣り人の意見を聞いてみれば打開策があるかもしれません。

また、試行錯誤した結果「リリースができない」となった場合には、釣獲数をしっかりと規制する必要が出てきます。

これらには船宿の協力が必須となるでしょう。

 

釣期の制限も資源量を安定させるという観点では重要になりそうです。

もちろんこれも闇雲に全魚種に対して行うのではなく、そもそもの生産力を加味して行わなければ釣り人側から発信する意味がありません。

例えばアジやシロギスのように個体数が非常に多い魚には釣期を設ける必要性があまりないかもしれません。

また、東京湾のカワハギなどは既に6〜8月に一部エリアで産卵期の釣りをしない期間を設けています。

 

と、ここまで書いて来たことに対しては業界内から「釣り船がルールを作って守っても、漁師が獲ってしまうから意味が無い」という批判が起こりそうです。

しかしこれはそもそも論点がズレています。

「釣りが社会悪にされないようにする」というのが喫緊で最も重要なポイント

これには確固としたレギュレーションを設けて履行していることが説得力に繋がります。

 

本当に職漁が乱獲に繋がって資源が減っているのであれば、「適切なルールを守っている釣り業界」として是正を求める、というのが本筋でしょう。

周りがルールを無視するから我々も無視して良い、というのはあまりにも子供染みていますよね。

 

 

●まとめ

ということで、今回は最近個人的に感じている船釣りの未来に対する不安について、思いつくままに書いてみました。

長々と書きましたが、要約すれば、

全部を「ダメ」と言われてしまう前に、自分達でルールを作っておけば、楽しく釣りが続けられのでは?

ということになります。

いつもと少し趣旨が違いますが、船釣り業界のほんの隅っこに居させて貰っている身として、何かしらできることがあれば積極的に関わっていきたいと考えています。

もっと具体的なアクションを取るには私一人では力も無くアイディアにも乏しいのですが、協力できることがないだろうか?と考える今日この頃です。

同じ気持ちの方がたくさん居てくれたら嬉しいです。

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