船釣りの本質的な上達を邪魔する~「知識マウント」と「小手先の魔法」~
O.F.Fではロッドの企画・製造と、それらを使った釣行で得た知見を、実釣に役に立つ本質的な情報としてわかりやすく具体的に発信する、というのを心がけています。
が、実際に発信していく側に立ってみると、「なぜこうも言いたいことが正しく伝わらないのか?」と思うこともしばしば。
芯を喰った情報をなるべくフラットに伝えるには結構なパワーが要るんですよね。
そして、どうやら情報伝達が難しくなるのには、受け手側と発信側にそれぞれ原因がありそう。
ということで、今回はその辺りについて考えてみます。
関連記事 : 釣りにおける「本質」について考えてみた
1. 受け手側の「小手先の魔法」への誘惑と自己流の壁
船釣りで成果を上げたい、もっと上手になりたいと願うあまり、私たち釣り人は往々にして簡単にできる方法や奇抜なアイテムに頼りたくなります。
いわば「小手先の魔法」を求めてしまうんですね。
誰しも、効果が保証されているかのようなテクニックや、仕掛けに付け加えるだけで劇的に釣果が変わるかの様に謳われる、魔法のようなアイテムがあれば試してみたくなるというもの。
今風に言うと「チート」や「ハック」と言い換えても良いですね。
実際にはそんな都合の良い「魔法」はほとんど無いのですが、それでもその様な情報で溢れていれば「それを取り入れて楽に上手くなりたい」と思うのは人情。
しかし、この様な情報ばかり集めてしまうようになると、残念ながら本質的な実力の向上はどんどん遅れていきます。
つまり時間が無駄になるんですね。
それからもうひとつ。
船釣りで上達を目指す人の多くは、自己流での釣り方に限界を感じ、指導を仰ぐことになると思います。
ところが、です。
いざ指導を受けると、「これまでのやり方」をどうしても捨てきれず、新たなアドバイスや技術を自分流にアレンジしてしまう。
自己流で上手くいかないから指導を仰いだはずなんですが・・・・
せっかく指導者から学んだ新しい知識も、自己流に組み込むことで本質から離れ、またしても「小手先の魔法」に依存する悪循環に陥るのです。
ここで大切なのは、思い切って「自己流を一度捨てる」こと。
この決断が、実は本質的な上達への第一歩となります。
何かを学びたいと考えるとき、私たちはその対象を一度純粋に受け入れる必要があります。
新しい知識を本質から理解し、釣りの技術全体に統合するためには、いったん自己流を手放し、初心者の気持ちに戻って学ぶことが欠かせません。
「自己流を捨てる」とは、単に新しいやり方を上辺だけ模倣することではありません。
むしろ、本質を理解し、そこから自分のスタイルに消化することです。
釣りにおいて本当に役立つテクニックは、経験に裏打ちされたものであり、一朝一夕で習得できるものではありません。
何度も試行錯誤しながら、本質を理解して自分のスタイルに落とし込んでいくことで、初めて「小手先の魔法」から脱却し、確かな実力を積み上げることができるのです。
2.発信者側の「知識マウント」とその危うさ
さて、ここで視点を変えてみましょう。
船釣りである程度の技術と発信力を持つ「発信者側」にも、大切な課題が存在します。
それは「知識マウント」による問題です。
釣りにおいて一定の実力が身につき、それが周囲に認められると、どうしても自分の知識や技術を誇りたいという欲求が生まれます。
これは人間の性でもあり、完全に排除するのは難しいでしょう。
しかし、この「知識マウント」が過剰になると、発信者の立場にある人は、伝えるべき本質よりも、自分の知識をいかに見せるかに意識が傾きがちになったりします。
自分がいかに高い知識や特別な技術を持っているかを強調することで、自分の価値を示そうとしてしまうのです。
その結果、「小手先の魔法」を求める受け手側と自分の価値を誇示したい発信者側で、需要と供給が一義的に合致して、なんとなく「めでたしめでたし」となってしまう。
実際には中身がほぼ無いにも関わらず、です。
そしてスポーツとしての船釣りが本来目指すべきボトムアップが妨げられてしまう、という悪循環に陥ります。
また悪いことに、この「知識マウント」は発信者が持つ影響力や発信力の大小に比例して、受け手側に相当に強く作用します。
「あの人がこう言うなら」と鵜呑みにしがちですが、そこで得られるのは表面的なものだったり、釣りの本質には直結しない、なんてことも多いのです。
3. 需要と供給が生む悪循環と業界の「小手先の魔法」への関与
誤解を恐れず言いますが、この「小手先の魔法」に対する需要と供給の関係には実は釣り具業界の都合も関わっています。
釣具メーカーにとっては、釣り人が「すぐに効果の出るアイテム」を求める姿勢は歓迎されることが多いのです。
なぜなら、こうした「小手先の魔法」を謳った商品とテクニックを結びつけることで、短期的な売上が確保できるからです。
新たなアイテムや表面的な方法が登場するたびに購買意欲が刺激され、売り上げにつながるという構図ができています。
もちろん、さまざまなグッズを使用して釣りを楽しむのは趣味の範疇であり、また、それらが本質を突いた素晴らしい物であるケースも多々ありますから、それ自体を否定するものでは無い、ということは言い添えておきます。
別の見方をすると、釣具業界にも消費者のニーズに応え新しい楽しみ方を提供するという使命があります。
しかし、その中で利益だけを追求しすぎると、例えば環境に悪影響を及ぼすような商品や釣り方が普及してしまう恐れもあります。
船釣りを愛するすべての人が海をフィールドとする以上、無駄に海洋汚染を引き起こすようなアイテムが受け入れられてしまえば、最終的には釣り人や業界全体がそのツケを払わされることになりかねない。
業界にも、商品を通じて「小手先の魔法」を提供し続けるだけでなく、本質的な成長をサポートする視点や矜持が必要です。
釣り人は道具に頼るだけでなく、スキルや考え方そのものを磨く。
メーカー側も釣りという文化を長期的に発展させるための製品開発や、本質を突いた啓発・啓蒙活動が求められるでしょう。
4. 発信者としての矜持と「知識マウント」への戒め
発信側の立場にある人は、自己顕示欲や称賛を求める欲求があることを自覚しつつも、それを自ら戒め、教わる側の成長を第一に考える姿勢が求められます。
「知識マウント」を超えて、本当に伝えるべき本質的な内容を伝えることこそが、発信者としての矜持(きょうじ)です。
発信者が本質に忠実であることは、受ける側の意識をも変革する力を持っているはず、と思っています。
「小手先の魔法」を求めてしまいがちな受け手に対しても、発信者が「本質はこうである」と伝え続けることで、長期的な視点からの成長を促すことができるのではないか?
発信者と受け手の間で、本質的な知識と技術が共有されることで、船釣り全体のレベルが底上げされていくと思う訳です。
5. まとめ
今回は、船釣りにおける「小手先の魔法」と「知識マウント」の問題があること。
そしてこれは一見したテクニックや理論の違いだけに留まらず、指導者と受け手の間に形成される姿勢や意識の差に由来しているのでは?、というお話しでした。
小手先のテクニックや自己満足的な知識の誇示に依存せず、発信者は矜持を持って本質を伝え、受け手は自己流を捨てて真摯に学ぶ姿勢を持つこと。
これがができれば、船釣りの世界が正しくスポーツとして認知され、より豊かで奥深いものになっていくはずです。
本質を見失わず、長い目で見た成長を目指していきたいものです。
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