フィネス化する東京湾カワハギとパターン考察 〜フィネスとストロングという概念の導入〜
ここ7〜8年、東京湾におけるカワハギ釣りの様子がだいぶ変わったなぁ、と感じています。(2024年現在)
2016年辺りから明らかにそれ以前と釣れ方や魚の反応に違いが出始め、特にこの2〜3年は以前から行っていた実績のある釣りの組み立てが全くハマらない、なんてことが増えてきている。
この感覚、10年以上前から東京湾でカワハギ釣りをやっている人には結構共感いただけるんじゃないでしょうか。
一方でこの変化が起き始めた後、つまりこの10年以内に東京湾のカワハギに入門した人からは、特に大きな違いを感じていない、なんて声も。
これ、カワハギ師の間でのジェネレーションギャップ?のようになっていたりもします。
では、その変化とはなんなのか?
これをひとことで表すとすると、私が最もしっくりくる言葉が「フィネス化」。
ということで今回は、この東京湾のカワハギ釣りにおけるフィネス化とそれに準じた「フィネススタイル」、そしてその対局にある「ストロングスタイル」について書いてみたいと思います。
●そもそも「フィネス」とは?
この「フィネス」という言葉はルアーフィッシングの世界、主にバスフィッシングで使われている言葉で、ざっくり言うとなかなか素直に口を使わない魚をよりナチュラル寄りなアプローチで釣ってやろう、とする方法全般を指します。
釣り人の多い河川や湖、つまりハイプレッシャーフィールドではフィネスに対応した釣り方無くしてはなかなかバスを手にできない(もちろん絶対ではないですが)という状況があり、とりあえず一匹と考えた時には外せない、鉄板のアプローチとなっているようです。
もう少し具体的に釣り方の方向性を見てみると、クランクベイトやスピナーベイト等の巻き物と呼ばれるアピールが強く横移動の大きなルアーに比べて、アピールが弱いナチュラルな動きの小さめのワームや小さく軽いラバージグ等を使用し、それに合わせてタックル、使用ラインもライトに。
アクションはなるべく横移動を抑えてその場での小さなシェイクを行っていく、といった感じでしょうか。(最近はフィネスも更に細分化されているので超ざっくりです。バスアングラーの皆さん、すみません)
と、ここまでの説明を見ていただいた東京湾のカワハギ師の皆さんはなんとなく通じる部分を感じ取っていただいたのではないでしょうか?
そう、現在の東京湾のカワハギと対峙する時、この「フィネス」的な方法論が重なって見えるはず。
そんなわけで、今回は東京湾のカワハギ釣りがフィネス化しているという観点からこの釣りを再構成してみようと思います。
●釣り場がフィネス化する理由
ということでまずは大前提。
釣り場がフィネス化するに至る流れを段階を追って見ていきましょう。
それから今回は全体像を捉えるためにシーズン要因としてのフィネス化、つまり一般的にオフシーズンとなる極寒期や魚が広く散って釣り難いとされる真夏についてはとりあえず除いて考えていきます。
まぁ逆にいえば、フィネス化とそのための対策を理解してしまえば、このような厳しい時期にも応用できるわけで、マニアの皆さんは知っておいて損は無い情報だと思います。
フィネス化の第一段階 → プレッシャーの増大 = スレたカワハギ
前述した通り、ハイプレッシャーなフィールドはフィネス化していきますが、もちろんこれは東京湾のカワハギ釣りにもそのまま当てはまります。
では、まずこの状況をもう少し分解してみましょうか。
まず第一段階は言葉通り、フィッシングプレッシャーの増大です。
つまり釣り手の多さ、船釣りでは釣り客と専門船の増加により魚がスレるということ。
東京湾では先のコロナ禍でグッと釣り客が増えており、カワハギ釣りは遊漁船の中でも特に人気が上がった釣り物のひとつです。
人気が上がったのには様々な要素が絡み合っていると思いますが、その辺りは今回は置いておきましょう。
このようなプレッシャーの増大は釣りの難易度上昇に繋がっていきますが、これをカワハギの行動から見てみると
・餌に対する執着心の低下(絶えず餌が供給されるため)
・警戒した捕食行動
等と言い換えられると思います。
ただ、この段階ではまだまだ偏ったフィネス化というレベルには至っておらず、適度に難易度が上がった状態。
魚の数(密度)が一定以上に温存された状態で、且つプレッシャーだけが増大する、という状況です。
フィネスなアプローチが必要なケースが日によって、時間帯によって発生しつつも、過度にそれだけに偏った状況ではない。
フィネスもパターンのひとつといったレベルで、釣り人的には結構面白いフィールドとも言えます。
これは言い換えれば、変化が目まぐるしく常にアジャストをしていかないとなかなか数が伸びなくなるということ。
つまりパターンとアプローチ方法の多様化ですね。
ルアーやフライフィッシングにおけるキャッチ&リリースを繰り返すエリア(C&R区間、管理釣り場)などがわかりやすい例でしょう。
たくさん居るのに簡単には釣れないスレっからしの難しい魚と勝負する楽しさ、って感じです。
フィネス化の第ニ段階 → 密度低下によりフィネスパターン優位へ
続いての段階は、魚の密度が一定以下になってしまう状態です。
一応前提として、資源的な観点と釣りのターゲットとして見た場合の増減が必ずしも一致しない可能性があるので、ここでは単に「数」とするのではなく「密度」として進めたいと思います。
というのもエリアをある程度広く、具体的には「東京湾」などの括りで見た場合と、あるポイント(個別の根回りなどの極狭いエリア)で見た場合で齟齬が出る可能性があるからです。
例えば、ある人(船長など)がいつもポイントにしていた東京湾内の「〇×根」という場所から、ターゲットの魚が減ってしまったとします。
その人の視点では「この根回りは昔はたくさん釣れたのに魚が居なくなってしまった」と言うことになります。
が、実は環境変化によって他の場所に魚が移動するなどして、東京湾内での総量としてはそれほど変わっていない、という可能性も考えられます。
代わりに今までそれほど釣れなかった場所に魚が固まってバリバリと釣れるようになった、なんて話を時々聞きますよね。
ですから魚の「数」が減った、もしくは増えたと言うには、前提条件としてその範囲を示さないと話がややこしくなるんですね。
なので、ここでは釣り場における魚の「密度」という表現で進めましょう。
関連記事 : 新説!? 魚の密度と釣り方の関係性
魚の「密度」は言い換えると、そのポイントにおける釣り人ひとりあたりの割り当てですから、これが減り出すと比較的イージーに餌(針)を食ってくれる魚の数も減りますし、釣られ難い(警戒心が強い)魚が残っていってよりスレた状態にもなります。
船釣りでは最初にポイントを通過する潮先が有利なのは周知の事実ですが、この段階ではターゲットの密度からパターンがフィネス寄りに大きく偏ってくるので、釣り人側がこれにアジャストできていなければアタリすら無い、なんていうことも多発します。
つまり、第一段階ではパターンのひとつに過ぎなかったフィネスなアプローチが、一気に重要性を増し、そのエリアにおいては場を支配するアルティメットパターンになっていくわけです。
フィネス化の第三段階 → 密度の更なる低下 = 運の要素の増大
第三段階は更に密度が低下した状態です。
この段階では、自分の仕掛け(餌)と魚が遭遇する確率が大きく低下しています。
すると起こってくるのが運の要素の増大。
密度が低く餌を取り合うなどの競争が起きないため、執着心が低く喰い方もゆっくりに。
これはフィネスな状態とも言えますが、それ以前にそもそも仕掛けの近くにターゲットが居ない時間が長いということになっています。
このような状況では、釣り方はどうしても仕掛け(餌)を一点に止めて魚が寄ってくるのを待ち伏せるのが効率的。
個体数の少ない大型魚を狙う時の方法に近く、最早フィネス化云々というよりも、数釣りと言う意味ではその釣り物自体の存在が危うい段階と言ったほうがよいかもしれません。
悲しいことに、この段階に至ってしまっている東京湾の船釣りターゲットがカレイ釣りでありアナゴ釣り、また直近では私の大好きな釣りであったイイダコ釣りでしょう。
イイダコなどは本当に劇的に釣れなくなっしまっていて、釣り物として成立させるのが困難なレベルです。
こうなってしまった原因は魚種ごとに色々な要素が絡み合っていると思いますから対策については一概にこうとは言えません。
しかしひとつ言えるとすると、やはり今後は船釣りにも資源を保全する為のレギュレーション整備が必要不可欠だろう、ということではないかと思います。
関連 : 船釣りに未来はあるのか?
ちなみに東京湾におけるカワハギ釣りの現状は、おそらく第二段階から第三段階へ向かい始めた位置にあると思われます。
今後もカワハギ釣りを長く楽しんでいくには、我々釣り人側からのレギュレーションの発信が必要になるでしょう。
●カワハギ釣りにおけるフィネスパターン攻略
さて、ここまでフィネス化の進行を三段階に分けて見てきました。
フィネスの意味とそれに至る海、及び魚の変化についてはなんとなくご理解いただけたかと思います。
で、ここからは釣り師としての目先のお話し。
つまり「フィネス化」する海に対応して楽しむにはどうしたら良いのか。
攻略法に言及していきます。
これを考える上で、まずは近年最も目に見える変化である道具立てから入ってみましょう。
近年の東京湾カワハギでのトレンドは、なんと言っても軟調子ロッドの使用と長めのハリス、そして小針化でしょう。
ここだけを取ってみても、バスフィッシングのフィネス化に通ずるものがありますよね。
特にカワハギロッドは10年以上前ではちょっと考えられなかったレベルでの軟調子化が起こっていて、実際にそれが明らかな効果を示すシーンが大幅に増えています。
そしてこのような状況に合わせて針やハリスもフィネスな方向に推移している、というのが全体像でしょうか。
というわけで、まずはこのような道具立てがなぜフィネス化に有効なのか?というところから攻略の糸口を見出していこうと思います。
フィネス対応の道具立てとその理由
現在の東京湾におけるカワハギ釣りのトレンドが「誘い掛けと目感度寄りの釣り」になっていることは周知の事実でしょう。
「いやいや、そんなことない。自分は常に手感度で釣りをしている」と言う人がいるかもしれませんが、この「手感度」という言葉が結構くせ者。
これは、『手感度』という言葉が「手で感じられるシグナル全て」を包含してしまう広い意味を持つため。
そもそも何をもって手感度というのか?
その認識は人によってバラバラです。
極端な話し、穂先が動くのと同時に手にも感じるアタリであれば、どちらを言葉にするのかはその人次第ですからね。
シグナルの種類を主観ではなく客観的に分類しないと話しが通じません。
この辺りについては別記事や拙著にて詳しく解説していますのでご参考ください。
参考記事 : カワハギの手感度アタリの新しい概念 →『擦過シグナル』をガッツリ深掘りしてみる
電子書籍(amazon Kindle): ロッドビルダーが教える~カワハギ釣り上達への道~ 本気の人が読む【カワハギ釣りの教科書】
さて、話しを戻しましょう。
現在の東京湾では、年間を通じて誘い掛け系と目感度系の釣り方こそがアルティメットだと言って良いほど有効になっていて、これこそが歴の長いカワハギ師が近年感じている違和感の正体です。
これはつまり、10年以上前は誘い掛けと目感度だけでは対応が難しい時間、もしくはそれ以外の釣り方が優位になる時間 =強い釣り→「ストロング」なパターンが多く存在していたということなんですね。
このストロングパターンについては後ほど実例を挙げてみますので、ここではとりあえずフィネスの対になる概念ということだけ覚えておいて下さい。
フィネス化の各段階で解説した通り、現在のような偏った状態になった大きな要因は魚の密度低下だと思われます。
そして、多くの人が経験的に感じている通り、この状況に合った道具立てが軟調子ロッドや小針や吸い込みの良い形状の針と長めのハリスだということ。
ということでこの「どうやら良さそうだ」という肌感覚をもっと具体的に、軟調子ロッドがどのように機能し有利に働いているのか?というのを明らかにしていきましょう。
●フィネス化したフィールドで軟調子ロッドが機能するワケ
ここまで東京湾というフィールドがフィネス化しているということを述べてきましたが、ではそうなった際に軟調子のロッドが活躍する理由は何なのか?
とその前に根本的なお話しですが、そもそも単に道具を変えたからと言って釣り人側がそれに対応した釣り方を工夫できていなければ意味がありません。
あくまでも「状況の読み」とそれに合った「釣り方」が先にあってこそ道具立てが機能するというのが物事の順序です。
ことフィネス化においても道具立てさえ真似たら勝手に対応できるということにはならない。
ある時たまたま上手くいったとしても再現性に乏しくなる、というのは当然と言えば当然です。
ということで、ひとつづつ頭を整理しながら見ていきましょう。
【フッキングメカニズムと掛け代の関係】
軟調ロッドの有効性を考える際にヒントとなるのが魚の捕食時の動きとフッキングのメカニズムです。
釣魚全般に言えますが、密度が高い状態の魚は競争心が働いて餌を取り合い活性が上がりやすくなります。
関連記事 : 新説!? 魚の密度と釣り方の関係性
このような状況で餌を咥えた魚は、ハリスのテンションが伝わると首を振って引きちぎろうとしたり、反転してその場を離れようとします。
この際に口に入った針が引っ張り出されて出口である唇の周りに刺さる、というのが理想的な針掛かりのフローです。
しかし魚の活性が低くなると、この首振りや反転と言った行動が弱く小さくなり、場合によっては吸って吐くだけや居食いになったりします。
こんな状態だとそもそもアタリが出難いことはもちろん、アワセなどで釣り人側がテンションを掛けていった時に針が口に入った向きのまままっすぐ出て来てしまう。
これがよく言われる「喰いが浅い」といわれる状況のひとつで、すっぽ抜けや掛けバラシに繋がっていきます。
このように、低活性時の魚は首振りや反転が弱くなっているわけですが、こんな時、硬いロッドと柔らかいロッドのどちらが良いのか?
その答えは多くの人がイメージする通り、柔らかいロッドです。
弱く小さい首振りや反転の動作に強いラインテンションが掛かると、針先が魚の口のどこかを拾う前にスポッと抜けてしまう。
魚の視点で見ると、餌(針)を咥えたまま上手く首が振れない、という状態です。
ここで、柔らかいロッドを使っているとどうなるか?
魚が弱い力で首を振った際に、テンションが掛かりつつも柔らかい穂先がそれに追従してある程度の距離を付いていってくれる。
つまり魚が餌(針)を咥えたまま首が振れるんですね。
これがいわゆる「穂先の掛け代(かけしろ)」というやつです。
言い換えれば「掛け代が大きく取ってあると、一定のテンションを保ちつつ魚に首を振らせることが可能になる」となります。
この掛け代の大きさとフッキングの関係こそがフィネス化において軟調ロッドが強味を発揮する理由のひとつ目です。
【誘いの動作と調子の関係】
カワハギ釣りにおいて、「誘い掛け」という概念はかなり重要です。
これについては、以前にも記事にしていますのでご参考いただくくとして、誘い掛けを行うにあたってロッドの調子はどう関係するのか?
ここではこの点について、ロッドのパート毎の役割で考えてみたいと思います。
・参考記事 : カワハギ釣りに悩んだらまずこれをやれ!!最強メソッド『誘い掛け』とは!?
①穂先から穂持ち付近の調子
まずひとつ目に言えるのは、魚が餌(針)を咥えた際に誘いの動作で必要以上に強いテンションが掛かると弾いたりすっぽ抜けたりしやすくなる、ということ。
必要なテンションは魚の活性によって変わってくるので一概には言えませんが、フィネスな状況ではやはり強いテンションは向かない。
これは先程触れたフッキングのメカニズムと掛け代に関連しています。
また一般的に「穂先が柔らかい」は「穂先が細い」と同義なので、目感度シグナルへのレスポンスが上がるのは言うまでもありません。
なお、目感度に関しては後ほど解説していきます。
更に穂先と穂持ちの柔軟性は、横移動を抑えつつボトムで餌を動かすいわゆる定点誘いを行いやすくしてくれます。
参考記事 : 【船シロギス】アタリを倍増させろ!!最強の『誘い掛け釣法』を隅々まで解説します〜①理論編〜
: 【船シロギス】アタリを倍増させろ!!最強の『誘い掛け釣法』を隅々まで解説します〜②実践編〜
この定点誘いは、カワハギ釣りの仕掛けが胴突き仕掛けである、ということからも比較的行いやすく積極的に組み込むべきパターンであり、また次に述べる「誘いのダウンスケール効果」とも少し関連してきます。
②穂持ちから胴にかけての調子と「ダウンスケール効果」
穂持ちから胴にかけての調子はロッドの全体の印象を左右するところ。
実はフィネス対応のロッドを設計するにはこの部分をどうするのか?が非常に重要だと考えています。
ひとつは既に触れた通り掛け代との関係。
ただこれには、どちらかと言うと穂持ちから穂先にかけての調子のほうが重要で、胴側の調子はそのサポート的な役割になります。
そしてもうひとつ、超重要なのが「誘い動作のダウンスケール効果」。
これ、実は私が勝手に作った言葉なので説明すると「釣り人が行う誘いの動作をロッドが吸収して小さくしてくれる効果」のことです。
ひとつ例を挙げてみましょう。
胴から穂持ちにかけてがあまり曲がらない硬い調子のロッドを使うと、釣り人がロッドを10動かしたとき、仕掛けの動きもほぼ10になります。
手の動きと仕掛けの動きが連動し、タイムラグも無いのでイメージ通りに仕掛け操作が行えます。
一方、穂持ちから胴にかけて曲がる軟調ロッドだと、ロッドが人の動きを吸収して仕掛けまで伝わる際に小さくなり、また柔らかさ故に動きが伝わるまでにタイムラグも出る。
これをして操作性が低く使い難い、という評価になったりするんですが、この「動きを吸収して小さく表現する」という特性を活かして使うと大きな武器になる。
それが「ロッドによるダウンスケール効果」の利用です。
そもそも人間の筋肉は非常に小さい動作を一定の時間連続で行うのがあまり得意ではありません。
なので、微細な連続したアクションを仕掛けに与えたい場合、腕の動きがダイレクトに伝わる硬いロッドを使用するのは不向きです。
頑張ればそれなりに再現できるかもしれませんが、コントロールに非常に神経を使いますし、ちょっと気を抜くとどうしても動きが大きくなりがち。
つまり難易度が上がるんですね。
ここで軟調ロッドが持つダウンスケール効果を使ってやる。
例えば誘いの入力に対して3分の1まで動きをダウンスケールしてくれる調子のロッドを使えば、1の動きで約0.3という超微細なアクションが容易に再現できるわけです。
また、どうしても発生してしまうタイムラグについても、一定時間連続して同じ動作を繰り返しているので特に問題にはなりません。
ちなみに、この効果が特に顕著に生かされるのが宙釣りでの誘い掛け。
ちょい宙からボトムまでを微細で連続した誘いで探っていると、針がカワハギの口中にヒットする確率が大幅に上がります。
しかも、軟調子ですから先に触れた掛け代との関係でフッキング率も自動的に上がります。
軟調ロッドが非常に強力な武器となるのがお分かりいただけるでしょう。
【目感度シグナルとの関係】
ここまで見てきたようにフィールドのフィネス化は恒常的に活性が低下した状態とも言えます。
活性が低いカワハギは餌への執着が低く、捕食時に餌を吸い込む力が弱くなり、且つ咥えている時間も短くなりがちです。
こうなると針と歯が擦れる際に出る「擦過シグナル」は発生し難くなりますから、フィネス化した状況で拾っていくべきシグナルは目感度が中心となってきます。
なお、目感度シグナルとは、「ラインに現れるテンション変化を穂先で見える化したもの」ですから、物理的に細い穂先が有利になっていきます。
軟調ロッドは文字通り「柔軟」なわけで、必然的に細い穂先を搭載することになる、というのは先にも述べました。
この点から、フィネスでの誘い掛けの釣りと目感度の釣りは組み合わせとしてとても相性が良く、現在の東京湾でこれらの釣り方がトレンドになっているのは非常に理に適ったことと言えるわけですね。
●フィネス対応の軟調ロッドが向かない状況
ここまで近年の東京湾においてフィネスな釣りが強力な武器になっていることを解説してきました。
とはいえこれは比率の問題であり、このような道具立てと釣り方が常にマッチしているのか?と問われたら、決してそうとは言い切れません。
あまり向かない状況や苦手なシチュエーションというのは依然として存在しています。
ということで、フィネス対応の軟調ロッドが向かない状況をいくつか挙げてみましょう。
軟調ロッドがあまり向かない状況①
軟調ロッドの苦手な事のひとつが、根掛かり回避です。
これは軟調ロッドの
・どうしても物理的にボトムサーチ時の解像度が低くなる
・操作に対して仕掛けが動くまでのタイムラグ、及びダウンスケール効果が発生する
と言うふたつの特性によります。
平たく言えば「軟調ロッドは根掛かりの回避能力が低い」と言う事ですね。
ですから、軟調ロッドでガリガリの根回りを釣ろうとすると、釣り方にある程度制限が掛かってしまう。
具体的にはキツめの根回りでキャストしてのボトムサーチ、なんていうシチュエーションは苦手なことの代表。
このような場所で根掛かりを避けて釣ろうとすると、どうしてもキャストを控えめにして船下中心にしたり、ちょい宙で釣る等の策を取る必要が出てきます。
軟調ロッドが向かない状況②
ふたつ目は、攻めるポイントがなんらかの条件によりフィネスな状態では無い場合。
つまり、魚の密度が高く高活性である、という状況ですね。
このような場合、軟調ロッドを使用したフィネス対応の釣り方を行うとどうなるのかと言うと、それは「回転の低下」として現れてきます。
つまり、カワハギを掛けるまでに時間が掛かってしまいがちになるんです。
もちろん高活性ですから、どんな釣り方でもじゅうぶん釣れるんですが、そもそも軟調ロッドの利点である、スローな魚相手の定点誘い掛けや目感度の釣りではタイムロスになってしまいます。
●フィネスの対概念 ⇔ ストロングパターンが成立する条件と実例
この記事では、近年顕著になってきた東京湾のフィネス化に対応することをテーマにしていますが、ここでフィネス、つまり「弱い釣り」の対極にある「強い釣り」 = ストロングパターンについても触れておきましょう。
これはイメージで言うと硬調ロッドを使用し、ハリスは比較的短め、ハゲバリ使用等、高活性で動きの速いカワハギに素早く対応していこうとする釣り方。
早め早めにシグナルを察知して掛けていき、良い時間にはなるべく高回転で数を稼ぐ、といった感じで考えていただくとわかりやすいかと思います。
そして、これの最たる物が『擦過シグナル』の釣り。
擦過シグナルに関しては何度か記事にしていますのでそちらもご参考下さい。
参考記事 : カワハギの手感度アタリの新しい概念 →『擦過シグナル』をガッツリ深掘りしてみる
『擦過シグナル』を簡単に説明すると、カワハギの歯と針が擦れることによって発生する手に感じるカサカサ、カリカリといった高周波のシグナルのこと。
穂先にアタリが現れる前から発生するシグナルなので、これを察知できることでほぼファーストタッチからカワハギの存在を認識することができます。
また、これはカワハギの口の構造と捕食動作が相まって発生する非常に独特なシグナルですから魚種の判別が容易になり、外道を避けやすく効率が上がります。
つまり、掛けるまでの時間が一気に短縮されるわけですね。
では次に、このストロングパターンが実際に圧倒的なアルティメットパターンとなった2023年の実例を見ていきましょう。
ストロングパターンの実例
ストロングパターンの利点が思い切り活かされた状況が2023年10月〜11月の東京湾奥、第二海堡を始めとした湾奥方面のポイントで起こっています。
この時の状況を整理すると
・根回りに着いたワッペンの密度が非常に高い
・あまり根から離れてくれない
といった感じ。
この状況では、キャストして根の形状をしっかりサーチし、仕掛けを置く位置(ワッペンが居る、且つ根掛かりし難い位置)を見極めてゼロテンステイさせることが必須となります。
なのでこれに合った道具立て、つまりカーボントップの硬調ロッドで釣ることが完全攻略の第一歩となりました。
先述の通り擦過シグナルによるファーストタッチを感じ取り、且つ魚種の判別ができるので、1つ目の餌で掛けることが容易になり次の投入までの時間も速くなる。
こうしてハイスピードの釣りを展開し一気に数を伸ばす。
結果的にこの時期に5名の束釣り達成者が生まれ、最高で168枚という驚異的な数字を叩き出しています。
このストロングパターンの肝となったのが当工房の看板商品である『カワハギ斬-ZAN‼︎TypeHH』。
奇しくも5名の束釣り達成者全員がこのロッドを使用していたという結果となりました。
連日の好釣果に釣り人がドッと集まり、船はそのポイントを繰り返し攻めていましたから、各人が色々なアプローチで挑んでいたはずです。
が、多くの人が近年のトレンドである軟調子寄りのロッドを使用し、フィネスパターンを主体に組み立てているためか、60枚、70枚という数字までは出てもなかなか束を超えていかない。
軟調ロッドが根のサーチ能力と擦過シグナルに対する感度については苦手である、というのは先に述べた通りですから、冷静に考えるとこの結果は当たり前と言えば当たり前です。
その点からも、根掛かり回避に長け、ボトムサーチと擦過シグナルに特化した硬調ロッドによる高回転なストロングパターンが高を奏しているのは明らか。
やはり「ロッドは状況により使い分けることが大切である」という当たり前の事実を再認識させられた分かりやすい出来事でした。
ちなみに、O.F.Fのカワハギロッドのラインナップでは、TypeHHとTypeMHがストロングパターン対応、TypeMがフィネス対応となっていて、更に2024年にはもう1機種、フィネスに大きく舵を切ったロッドを企画しています。
【O.F.Fのストロングパターン対応ロッド】
【O.F.Fのフィネスパターン対応ロッド】
・New Item スーパーフィネスロッド 2024年発売予定
●まとめ
今回は、東京湾のカワハギ釣りがフィネス化している事実とその理由について考察し、また、この状況に対応するための基礎的な考え方と道具立てについても考えてみました。
これまでもカワハギの釣法や方法論については、様々なアプローチで語られてきました。
今回の記事では、おそらく公には初となる「フィネスパターン」とその対局である「ストロングパターン」という観点をカワハギ釣りに取り入れてみたわけですが如何だったでしょうか?
個人的にはこれ、とても単純にスッキリと纏まるので実釣時のパターン切り替えにおいてとても効果的な考え方だと感じています。
今の東京湾では、フィネスパターンを制することが非常に重要でありつつ、それでも前述のような状況が訪れることもあってストロングパターンも欠かせない。
状況判断を早くし、これらを自在に切り替えて変化に対応していくこと、またそれぞれの状況に合ったロッドを産み出していくことこそが私の目指す理想の姿である、と考えています。
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