【注文竿の世界】”ロッドを一から全て作る”とはどういうことか?
O.F.F大西釣具工房では、ロッドの企画・製作の他に、カスタムをお受けすることもあります。
カスタム、つまり改造ですね。
これは、既存の竿の一部を好みに合うように変更することです。
例えば短いバットを延長したり、リールシートを変更したり、ガイドを変更したり。
この辺は具体的な寸法や好みのパーツを選んでしまえば、あとは取り付けるだけですから非常にわかりやすいです。
少し難易度が上がるのが穂先の調子変更。
そもそもベースとなるロッドについては、一部のよく知っている物を除けば、各メーカーさんのカタログなどを参考にして改造可能なのかを確認しなくてはいけません。
カタログ落ちしている物などはそれも難しいので現物をみてみないとわからないこともあります。
スペックの確認ができて可能となったら今度は好みの擦り合わせです。
調子というのは使用者それぞれの感覚に依る部分。
色々とお話しを聞いてその方が普段されている釣りや、使用されているロッドなど、好みの部分を理解しないといけません。
何も無いところから感覚頼りで作り出すことになりますから、「一発でドンピシャ」というワケにはなかなかいかないのです。
ですから、穂先の調子出しが必要な場合は、途中経過を確認しに来ていただいて更に微調整したりなどが必要になります。
一部分の改造でもこれだけの手間が掛かるわけですが、これをフルオーダーで作るとなったらどうなのか、というと、これは尋常ではありません。
しかし日本の釣り竿作りには、この完全オーダーのシステムが既にきちんと存在しています。
それが和竿の世界です。
●完全オーダーメイド【和竿】の凄さと合理性
和竿のメイン素材といえば、それはいうまでもなく竹です。
天然の竹を組み合わせて一本の竿に仕上げていくわけですが、その工程数といったら凄まじいものがあります。
竹を山から切り出して枝を払い、天日に干して火を入れて拭き、また干す。
しっかり乾燥させたたくさんの竹の中から用途に合わせて一本を選ぶ。
そこから更に火を入れて曲がりを治し、芽を取り、挿げ口を整えて糸を巻き、漆を塗って乾かし、研いではまた塗りを繰り返す。
そもそも漆は、ウレタン等の化学塗料と違って扱いが難しい。
硬化させるために湿度の管理が必要ですし、乾くまでには数日から数週間と、かなりの時間を要しますし、直に触れるとかぶれたりもします。
つまり、途方もない手間が掛かるわけです。
また、竹は天然の素材です。
そこから適宜、適切な材料を選び出していく眼力は、我々素人には到底真似のできるものではありません。
しかし反面、この「型が無い」というのは、フルオーダーの世界では良い面でもあります。
つまり、開発の初期コストが掛からないのです。
ですから竿作りに携わるものとして “和竿を誂える” というのは決して高いものではないと、ひしひしと感じています。
●カーボンロッドを完全に一から作るとどうなるのか?
ここからはカーボンブランクスのロッドに話しを戻しましょう。
前述の通り、カーボンロッドを一から作るには型が必要です。
この型は金属の棒を削って作りますが、これを「マンドレル」と呼びます。
この型にカーボンのシートを巻きつけて窯に入れ、熱で硬化させるとカーボンブランクスが出来上がるのです。
そしてこのマンドレルは、各メーカーがそのロッドに必要な長さや太さ、テーパーを割り出して図面を起こし、工場に依頼して旋盤加工で削り出してもらったもので、企業秘密です。
ですから、完全に一から新しいロッドをオーダーしようとすると、このマンドレルをデザインするところからスタートすることになります。
マンドレルは太さやながさによってまちまちですが、一本あたり数千円〜数万円ほど。
継ぎ竿であればその本数分必要ですからコストは嵩みます。
また、それが出来上がるまでにはモデルになる物を探したり、何度も打ち合わせをした後に図面を起こしていきます。
なので、これだけで既製品のロッドが数本買える場合もあります。
そして材料の選定も必要です。
マンドレルに巻き付けるカーボンシートにも種類があります。
例えば30tカーボンとか40tカーボンなんていうのを聞いたことがある方もいるでしょう。
これらを作りたいロッドの性格や機能に合わせて使い分けることになります。
更に、カーボンシートをマンドレルに何周巻き付けるのか、によっても調子は変わってきます。
このように組み合わせは無限ですから、これを選び取るのはなかなかにややこしいのです。
したがって「まずはこんな感じ」とあたりをつけてブランクスを焼いてみることになります。
すでにここまでで打ち合わせ、設計、マンドレル製作、ブランクスの試作と結構な費用が発生しています。
そして焼き上がったものをロッドの形に組み立てます。
船竿であればここにソリッド穂先を装着することが多くなりますから、当然こちらも素材選びから設計、作りこみ、実際の釣りに持参してテスト、となります。
ここではブランクス以外のパーツ類の実費、穂先の削り出しや組み立ての工賃、テスト時の乗船料などの費用が発生します。
もちろん、ここまでの全てにおいて人件費、その他の細かい費用(交通費や通信費など)も発生しています。
そして大概はこれを何度も繰り返して手直ししていくことになりますから、更に費用は嵩んでいくわけです。
とこのように、個人で使う一本だけのカーボンロッドを完全に一から作るというのが現実的でないというのはお分かりいただけると思います。
では、自分だけのオリジナルロッドを作りたい、という場合はどうしたら良いのでしょうか?
●カーボンロッドはセミオーダーする
「ブランクスを自分専用に作る」いうのが現実的ではない、とお伝えしてきたわけですが、ではカーボンロッドのオーダーメイドは不可能なのか?というとそんなことはありません。
そんなニーズに対応すべく、いくつかの材料メーカーさんから小売り用のブランクスが販売されているからです。
つまり、すでに用意された既製品の中から好みに近いものを選んで使用する、言ってみれば「セミオーダー」の形を取ることになるんですね。
実際に趣味でロッドビルディングをされる方は、これらメーカーさんのリリースしている銘柄の中からブランクスを選び組み立てています。
とは言え、現物に触りもせず、カタログを見て「これが好み!!」とはなかなかなりませんから、ブランクスをたくさん取り揃えている小売店さんに行ってみるのが早道でしょう。
関東近郊であれば日本橋のサバロさんが有名、且つオススメです。
リンク :釣道楽屋SABALO
他にも相談に乗ってくれる小売店さんは調べればいくつか出てくると思います。
こうして候補のブランクスが見つかればそれをベースにその小売店さんでオーダーメイド依頼するもよし。
銘柄がわかっていれば私のところでも対応は可能になります。
(※O.F.Fは小売店ではないのでメーカー既製品のブランクス在庫はありません)
なお、O.F.Fではマルイカ用に限り、自作用としてオリジナルブランクスや穂先の半製品を販売してしています。
よろしければご確認ください。
●フルオーダーメイドとメーカー開発の違いは販売本数
セミオーダーで無事完成した自分だけのロッド。
しかし、これも実際に組み上げてテストをしたわけではありませんから、使ってみたら「もっとこうしたい」というところが出てくるかもしれません。
と、こうしてどんどん沼にハマっていくわけですが(笑)
結局のところロッド作りはトライアンドエラーの繰り返しなんですね。
しかし、すでにモデルがあるので次に手直しするポイントも見えやすい。
そして既製品のブランクスからセミオーダーできることにより、初期費用は圧倒的に軽減されるわけです。
ちなみにこの初期費用は、当然のことながらブランクスを販売しているメーカーが「開発費」として担っています。
裏返せばこれは
「個人のフルオーダーメイドの初期費用も、製品の開発費用と同じだけ掛かってしまうんですよ」
ということを示しています。
メーカーの開発費は、その製品を一定の期間、一定量販売する、という前提で拠出されています。
それを自分専用ロッド一本ですべて吸収するフルオーダーメイドがとんでもなく高くなってしまう、というのがお分かりいただけたかと思います。
●まとめ
というとことで、今回は時々お問い合わせをいただく、ロッドのオーダーメイドについて、その手順や費用の面から解説してみました。
特にO.F.F大西釣具工房は小売店ではないので、一部を除きパーツ類を在庫して販売しているわけではありません。
ですから、たくさんある在庫の中から実際にお気に入りのブランクスを選んで貰って、こんな形にして欲しい、という希望を聞きながら作る、というのがなかなか難しいのです。
オリジナルロッドを組み上げたいという方は、是非一度ブランクスをたくさん取り揃えた小売店さんや、展示されている場所(フィッシングショーなど)に行ってみることをオススメします。
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