ベイト?スピニング?東京湾船小物釣りのタックル考察

東京湾の船小物、そして数釣りといえば最も一般的なのがライトアジ、そしてシロギス辺りでしょうか。

他にはカワハギ、湾フグ、アナゴ、イイダコ、メバル、カサゴなども挙げられると思います。

これらの入門編については検索すればあれこれと出てきますので、その辺りのことについてはここで改めて紹介する必要もないかと思います。

が、私が船釣りを始めた時にはタックル、特にリールの選択にとても疑問がありました。

それは具体的には次の2点。

 

  • ベイトタックルが圧倒的に多いのはなぜか?
  • 一方でシロギス釣りだけ、ほぼスピニングタックル一択状態なのはなぜか?

 

ルアーフィッシングから入ってきた私としては、同じターゲットにおいても”スピニングとベイトは状況によって使い分けるもの”と考えていたのでとても不思議に思ったのをよく覚えてます。

そして、船釣りに傾倒していくにつれ、この疑問の答えがなんとなく見えてきました。

 

 

●リールの性能による制約

使用するタックルがベイト or スピニングと、釣り物によってどちらかに偏って固定化している大きな要因はいくつかありますが、そのひとつは、それぞれの釣りが確立されてきた時期におけるリールの性能の影響があると思われます。

日本、特に東京湾では、まだリールの使用が一般的では無かった昭和初期の時代から船釣り文化が成熟していました。

そして船の移動とともに水深の変わる船釣りでは、ミチイトの出し入れで水深調整ができる手バネ竿が使用されてきました。

これは素晴らしい発明で、私も手バネ竿の釣りの大ファンですが、それはまぁ今回は置いておきましょう。

が、手バネ竿は糸の出し入れはできますが、キャストはできません。

ですから元々は日本の船釣りにキャストという概念は無かったのです。

そして昭和以降、船釣りにもリールが導入されますが、船下を狙うこと、糸が太く錘が比較的重たいこともあり、トラブルの少なさで主にベイト、つまり両軸受けリール(一部で片軸受けリール)が選択されます。

リールの導入により、手バネ竿では手で手繰っていた糸の出し入れがハンドルを巻くだけで素早く行えるようになりました。

また、巻いた糸はそのままスプールに収納される為、手繰った後の糸が絡むトラブルが軽減され、深い場所での釣りが手軽に行える様になりました。

 

シロギス釣りへのキャストの導入

が、ここでシロギス釣りではキャストして広く探ってやることで大きく数を伸ばすことができる、という認識が広まります。

しかし、当時の船用のベイトリール(両軸受けリール)はキャスト性能が全くありません。

ルアー用のキャスティング可能なベイトリールも存在はしていましたが、現在の様にブレーキ性能が優れていませんから扱いが難しく、またアンダースローでは飛距離が稼ぎにくいのです。

ということで、消去法的に飛距離が出しやすいスピニングリールが選択されます。

昭和のスピニングリールたち

当ブログでも以前に触れた通り、昭和の頃のシロギス釣りは競技性がとても高く、各宿の名人がしのぎを削っていましたから、少しでも有利な方法があるとなれば流行るのは必然でした。

参考 : 船シロギス釣りの極意は『誘い掛け』にあり

ということで、シロギス釣りにおいてはスピニングリールを使用する、というのが当たり前となり、ロッドメーカーもスピニングを使用する前提での製品設計(特にバット側のガイド)をしていて、これが更に固定化していきました。

これが現在も船シロギスでスピニングタックルが主流となっている理由です。

 

シロギス以外がベイトタックルな理由

昭和の頃の船釣りでは、太糸に大型の両軸リール、場合により片軸リールで船下を狙うのが多くの釣り物の共通点でした。

この頃は『船リール』なんて呼び方をされていましたね。

昭和の船用両軸受けリールと片軸受けリール

このように、船釣り用の両軸リールに関しては、今から30年程遡るとキャスト性能を重視したものは皆無に等しい状態でした。

また、使用する糸の太さからスプールの収納キャパシティもかなり必要だったので全体的に大型でした。

シロギス釣りと一部の釣り物(ブラクリでのアイナメ釣りなど)以外では、これらのリールを使用した船下狙い、つまり縦の釣りが常識とされていました。

もちろんこの流れは先述した手バネ竿での釣り方が既に確立されていた、というのも要因のひとつでしょう。

 

 

●ライト化とベイトリールでのキャストの一般化

そして今から20数年前、船釣りの世界にPEラインが登場。

それと共に船釣りにライト化の波が訪れます。

これにより、船釣りへのルアー用のベイトリールを流用する人が出てきました。

また、この頃には既にルアー用のベイトリールはブレーキ性能が飛躍的に向上しており、キャストが簡単に、且つ飛距離も大幅にアップしていたのです。

キャストする、という文化がなかったところにキャスト性能の高いベイトリールが使用されれば新たなメソッドも生まれる。

それが最も顕著に表れたのがカワハギ釣りでしょう。

今や、カワハギ釣りはキャストをするのが当たり前となりましたが、実はこれ、ほんの20年程度のことなのです。

と、ここで疑問となるのは、なぜキャストが有効なのにシロギスの様にスピニングが使われないのか?ということです。

もちろん、キャストが有効であるといわれ始めた頃には、一部でスピニング仕様のカワハギロッドもリリースされていました。

しかし、これはシロギスの様には根付かなかった。

その要因のひとつは、カワハギ釣りの人気がグッと高まった時期には既にキャストが容易なベイトリールが存在していた、ということです。

もしかすると、まだベイトリールでのキャストが難しい時代にカワハギ釣りがブームになっていたとしたら、シロギス釣りのようにスピニングタックルの使用が一般的になっていたのかもしれません。

 

 

●スピニングとベイトの利点を今一度整理しよう

そんなわけでここまでスピニングとベイト、それぞれの使用が釣り物ごとに固定化された経緯を考えてみました。

そしてここからは、これらを踏まえた上で敢えて固定観念を外してフラットにそれぞれの利点と弱点を整理してみたいと思います。

 

スピニングリールの利点と弱点

船小物釣りでのスピニングリール使用による利点といえば、やはり1番に挙がるのはキャストの簡単さでしょう。

キャストし広く探ることが有効な船シロギス釣りにスピニングが使用され、ベイトリールのキャスト性能が上がった現在もそれが固定化している、というのは既に述べた通りです。

また、アンダースローでより飛距離を稼ごうとするとスピニングの方が若干楽であり、トラブルも少し減る、という側面もあります。

もうひとつの利点は、スプールの抵抗が無いため、より軽い錘を簡単に深い水深まで落とすことができる、というところでしょう。

この特性を活かして、PEライン登場以降に生まれたひとつテンヤの様なライトゲームにはスピニングリールが多く利用されています。

一方で弱点になるのはラインの出し入れに一手間掛かる、ということでしょう。

特に足場が固定されていない、という特殊な環境で仕掛け操作を行う船釣りにおいて、リールによるラインの出し入れは必須項目です。

 

参考 : 気付けばもっと釣れる!!陸っぱりと船釣りの決定的な違い

 

スピニングリールでは、ラインを出すために毎回ベールを起こしてやる必要があり、それにはロッドを握ったのと反対の手を使います。

キャストが有効なカワハギ釣りで、スピニングタックルが定着しなかった原因のひとつは、実はこのアングルコントロールの容易さの違いにもあるのかもしれません。

 

ベイトリールの利点と弱点


船小物釣りにおけるベイトリールの優れている点として1番に挙げられるのがラインの出し入れのしやすさです。

ベイトリールではこの操作をロッドを握った手だけで行うことができます。

ラインを出すにはクラッチを切るだけ。

そしてクラッチを戻しラインを巻くには、通常はハンドルを持って回す必要がありますが、ちょい巻きであれば、ロッドを持つ手でスタードラグを弾くことで完了させられます。

つまりラインの出し入れを片手で行えるのです。

前述のスピニングリールの弱点をベイトリールはカバーしてくれるわけです。

この利便性は意外と見逃されがちですが、実は非常に重要なポイント。

というのは、リールからのラインの出し入れは、ロッドとラインの作る角度(アングル)をコントロールするために必須の動作だからです。

また、巻き上げ中に魚がバレるなどして重さが変わった際、構造上スピニングより横ブレの少ないベイトの方がこれをより察知しやすい、という利点もあります。

一方弱点はというと、やはりこれは飛距離に関連した部分でしょう。

高性能なベイトリールは今や飛距離もスピニングと遜色ないレベルですが、そういうリールは得てして高額です。

スピニングは金額に依らず飛距離は出せますから、その点は敵わないといえます。

スピニングタックルはアングルコントロールに要注意

なお、スピニングを使用していても上級者は頻繁にラインを出し入れしてアングルコントロールを怠りません。

そういう人はどちらのタックルを使用しても問題ないのです。

が、ここに意識がいっていない人がスピニングタックルを使用すると、操作に一手間掛かる分、余計にラインの出し入れをサボってしまい、アングルが大きく鈍角に振れたままになりがちです。

そして、これを何度も続けることでフォームが崩れ、悪い癖がついてしまう、なんてこともあります。

参考 : 釣果が安定しない人必見!!基礎固めでこっそり上達!?

参考 : 船シロギス釣りの極意は『誘い掛け』にあり

ですからスピニングタックルを使用する際には、アングルに注意を向けてロッドを操作し、空いた手は常にスプール付近に待機させ、ラインの出し入れを素早く行えるようにする必要があります。

 

 

●結局ベイトなの?スピニングなの?

と色々と書いてきましたが「だったらどっちを使えば良いの?」となると、多くの釣り物ではやはり現在の主流であるベイトタックルが良いと思われます。

その理由は先に述べた通り、ラインの出し入れの容易さからくるアングルコントロール性の高さです。

ではスピニングが圧倒的主流となっているシロギス釣りではどうなのか?というと、ベイトリールのキャスト性能の向上により昔ほど優劣の差は無くなったので、今であればどちらでも問題ないというのが実態でしょう。

もちろん、ブレーキ性能の良いそこそこのスペックの機種を選ぶ必要があること、少しでも飛距離をと考えた時、スピニングの方が簡単、且つ楽になるのは事実です。

が、こだわりを持ってタックルを選択するのも釣りのひとつの楽しみ方です。

なので、最終的には好みで選択すれば良いのですが、残念ながらそれぞれの利点と弱点を上手く使えていない人も中にはいらっしゃいます。

特に道具のせいでフォームが崩れてしまうと、釣り全体に悪影響が及ぶのでもったいないです。

当然これには使用するリールの他にも、ロッドの調子が関係してきますから一概には言えません。

が、スピニングタックルを使用していて「どうも仕掛け操作が上手くいかない」「釣果が伸びない」と感じているひとは、固定観念にとらわれずに一度どちらを使うのかから考えてみても良いと思います。

ちなみに私のシロギス釣りは、手バネ竿の様に座って2本竿を左右の手に持ち誘いながら釣る『2本竿誘い釣り』というスタイルなのですが、これにはベイトリールの使用がとてもハマります。

リールはちょい巻きレバーが便利なダイワさんのスマックを使用させてもらっています。

これはキャスト性能、ブレーキ性能においてハイスペックとはいえないリールなので、飛距離の点で不利と感じることも時々ありますが、通常はそれほど支障はありません。

また、両手誘いのスタイルは “釣趣” という楽しみの部分もじゅうぶんに満たしてくれるので、なんだかんだ15年以上このスタイルを変えていないのです。

個人的にはもっとキャスト性能のあるスマックが欲しいですが・・・笑

 

参考 : 二刀流の釣りはなぜ面白いのか?

 

 

●まとめ

今回は船小物釣りに使うリール、タックルについて考えてみました。

釣り物ごとに定番として使われている道具には先人達の知恵と経験が大きく反映されていますから簡単に否定したり、単に他人と違うことをしたい、という安易な考えではなかなか覆る物ではありません。

とはいえ、道具そのものに技術革新があった場合や自然環境の変化があった場合には、これに捉われない自由でフラットな発想も必要になる、と考えています。

そこで今一度使用するタックル、特にリールについて見直してみた時 “キャスト性能” という足枷がなくなってきたベイトリールを、スピニング一択のシロギス釣りで使ってみよう、というのがこの釣り方を始めた時の考えのひとつだったのです、

そしてこの道具立てでシロギス釣りを15年以上行ってきて

ベイトでのシロギスは全く問題無い

ということを強く実感しています。

このような発見は、実はまだまだ他にもあるかもしれません。

ですから常にアンテナを張って、様々なことに臆せずチャレンジをしていきたいと思っています。

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