カワハギの手感度アタリの新しい概念 →『擦過シグナル』をガッツリ深掘りしてみる

O.F.F大西釣具工房では、船小物釣りの楽しみ方の幅を広げ、全体的なレベル向上を促すことをひとつの目標にしています。

そこで前提条件として必要になるのが言葉の定義付けや共通認識の構築。

そんな中で特に力を入れていることのひとつがカワハギ釣りでのシグナルの捉え方と釣り方の分類です。

今、カワハギ釣りにおいて、釣り人が感じ取るシグナルは”手感度”と”目感度”の二種類に大別されています。

しかし、この定義は非常に主観的で曖昧なものなので、なかなか技術的な面での共通認識が作れないでいます。

そんな状況を改善して頭を整理し、共通認識を持った釣り人同士が有意義な情報交換をできる状況を作っていきたい。

そのための第一歩ということで、今回はカワハギの”手感度”について深掘りしてみようと思います。

カワハギの手感度は誰にでも感じ取れるのか?

当工房の看板であるカワハギ斬-ZAN!!-TypeHHは、カワハギ特有の擦れるような手感度アタリに特化させたロッドです。

その感度は非常に強力で、カワハギがこのシグナルを出してくれる主な時期、具体的には3月中旬以降から12月初旬の長い期間、つまり厳寒期を除いた期間においては、知らないうちに餌をツルツルにされてしまうことは殆んど有りません。

ですから、これが非常に大きなアドバンテージになることはご理解いただけると思います。

もちろんカワハギの絶対量が少ない年や、少ないポイントでは、特有の手感度アタリ自体が出難くなってしまうので、常に大活躍という訳にはいきませんが、その辺りのことについてはこちらの記事をご参考ください。

参考 : 新説!?魚の密度と釣り方の関係性

カワハギ特有の擦れるような手感度=『擦過シグナル』

何度か記事にも記載していますが、当工房では、カワハギ特有の手感度を

穂先は一切動かず、周波数の高い「カサカサ」「チッ」「チリ」「カリカリ」等、手だけに感じるシグナル

と具体的に示しています。

これは、単に”手感度”というと、手に感じるアタリを全てを手感度としてしまったり、そのようなシグナルの大小を個人の主観で呼び分けたり、などの問題が出てくるからです。

しかしカワハギが出す手にだけ感じる擦れるようなシグナルは、完全に異彩を放つ特殊なもの。

つまり他の手に感じるアタリとは明確に違う存在なので、これを狭義の手感度として区分してしまおう、ということなのです。

ということでこれらを、その擦れるような独特の感触から『擦過(さっか)シグナル』と呼ぶことにしました。

『擦過シグナル』を感じ取るには

擦過シグナルを拾って組み立てる釣りをしていると、同船した方から質問をいただくことがあります。

その最も多い質問が「そんなシグナルは感じられないがどうすればよいのか?」というもの。

これに対する回答は主にふたつで、

①擦過シグナルの伝達に適したロッドを使用しましょう

②擦過シグナルを感じ取るためのロッド操作をしましょう

となります。も

もう少し具体的にいうと、

①は

ロッドがカーボントップであること

②は

仕掛けを止めた状態か極ゆっくり、もしくは極小さく動かすこと

となります。

 

ここで誤解の無いように一応言っておきますが、何が良くて何が悪い、というお話ではありません。

自分の中で「このシグナルを指標に釣りを組み立てよう」という戦略があり、それが釣果に繋がるのであればそれが正解です。

カワハギ釣り師の目指すところのひとつは数釣りですから、最終的には数字が全てとも言えます。

そこに遜色が無いなら擦過シグナルを感じ取ることが必ずしも必須とは言えません。

しかし擦過シグナルの存在を知れば、更にカワハギ釣りが楽しくエキサイティングになることは間違いないので、気になる方は是非体験してみて欲しいと思っています。

また、②については私が提唱している釣りが誰でも上手くなる『G.F.A理論』の実践とても有効ですので併せて確認してみてください。

参考 : 釣果が安定しない人必見!!基礎固めでこっそり上達!?

カワハギの『擦過シグナル』による手感度釣りに長けたロッドの条件

カワハギがなぜ独特な「カサカサ」「チッ」「カリカリ」等と言った独特な擦過シグナルを発生させるのか?

それは、カワハギの泳ぎ方と歯の構造にあると考えられます。

つまり、

ホバリングして硬いくちばし状の歯で餌を噛む

と言うこと。

ホバリングしているので、仕掛けをあまり引っ張らない。

そうなると他の魚のように分かりやすいアタリが出にくい。

その代わりに、餌を啄んでいる最中に針を噛んだり、針先が硬い歯に触れ擦れる。

この硬いもの同士が擦れ合う周波数の高いシグナルが擦過シグナルの正体だと思われます。

そして、ロッドはその高周波のシグナルをPEラインから受け取り手元に伝えます。

つまり、穂先が最初の受け手、入力端子となる訳でここでなるべく多くの擦過シグナルが入力されて欲しい。

高周波シグナルは硬い(硬度が高い)素材ほど伝達しやすくなるので、入力端子として最も相応しい穂先素材はカーボン一択となります。

カーボン = 炭素ですから、元素としては地球上で最も硬いダイヤモンドと同じ。

なので、伝達の良さは想像しやすいでしょう。

因みに、グラスはカーボンに比べ材質自体の硬度は低いので、擦過シグナルの伝達にはあまり向かないと言えます。

※カーボンもグラスもレジン(樹脂)を混合しているので、その含有率によって性質は変わります。

そして、意外に感じる方も多いと思いますが、いわるゆメタル = チタン合金は、硬度としてはとても低いのです。



表の通り、硬度を表すビッカースの数値では鉄と同等から倍程度と大きくは変わりません。

一般的には「鉄もチタン合金も硬いじゃん??」と考えがちですが、硬度と言う観点では柔らかいんですね。

鉄とチタンから比べたらガラス(つまりグラス)のほうが硬度が圧倒的に高いのがお分かりかと思います。

ここには、おそらく多くの人が強度と硬度を混同してしまうことから起こる勘違いがあると思います。

何事も印象だけで判断しては間違えることがある、と言う良い例です。

 

そんなわけですから、ことカワハギの擦過シグナルの伝達に限って言えば、あまり向いているとは言えません。

こういう話しをすると、「いやいや、他の素材でも感じ取ることは出来るよ」という声をいただくこともあります。

もちろん、グラスやチタン合金の穂先を搭載したロッドで似たようなシグナルを感じ取ることはあります。

が、ここで大切なのは「どちらがより向いているのか?」という点です。

これについて、もう少し具体的に解説してみます。

下記はカワハギロッドのイメージ図です。

この図でポイントになるのは穂先の素材が何であるかに係わらず、それ以外の部分、つまりブランクスはカーボン(中空)で出来ている、と言う事です。

前述のとおり、擦過シグナルの入力にはカーボンが最適です。

なので、①の先端部でこれを拾えるカーボン穂先が有利になるのは自明の理でしょう。

が、カーボン穂先以外を搭載したロッドであっても、穂先より手前、図の②の位置からはカーボンブランクスになります。

ということは、擦過シグナルが強く大きくなっていけばやがて中空カーボンの位置まで到達して手元に伝わる、と言う事。

これが、カーボン穂先以外でも擦過シグナルが出るメカニズムです。

 

もちろんそれぞれの材料には特性があって、それぞれに適した使い方があります

どれが良くてどれは駄目だ、と言う一元的な話ではありませんので、そこはお間違い無きようにお願いします!!

要は、何を目指して設計し、何に特化させるのか?

という話で、これについても以前に少々触れています。

参考 : カワハギ竿には作り手が意図した使い方がある

擦過シグナルをより多く出すための調子

手感度釣り、特に擦過シグナルを拾うことに特化したロッドに使用する穂先の材質には、カーボンが適していることが分かりました。

ちなみに穂先から下、つまりブランクスについては現在市販されているほぼ全てのカワハギ竿でカーボンが使用されているので、ここはいったん置いておきます。

で、次は穂先の調子です。

同じ材料で作っていることを前提にすれば、これは『穂先の太さ』と言い変えても良いかと思います。

そして擦過シグナルは、同素材であれば太い方が張りが強くなり良く伝達されます。

つまり硬く曲がらない方が擦過シグナルは減衰し難い訳です。

これが素材の観点から見た擦過シグナルの伝達効率で、ここを無視して手感度特化ロッドを設計することは出来ません。

 

 

擦過シグナルだけに究極に特化させると釣れないロッドになる??

前述の通り、手感度、特に擦過シグナルを限界まで高めるには

極力曲がらない、高反発のカーボン素材を使う

と言うことになります。

しかしこれは、言うなれば竿ではなく『棒』です。

せっかく擦過シグナルをたくさん拾えても、ただの棒でカワハギ釣りをしろ、って言うのは無理な話。

おそらく上手く針掛かりさせられないでしょう。

棒とまでは言いませんが、「感度は上がったけどカワハギが掛け難い」といったロッドも世の中には幾つか見受けられますよね。

こと「カワハギを掛ける」ということに関しては、穂先の先端は適度にクイっと曲がってくれる方が良い。

つまり「掛け代」が必要な訳です。

という訳ですから、ロッドの作り手としてはこの「掛け代」を作りつつ、手感度を保てるようにしなくてはならないのですが、そこが腕の見せ所とも言えます。

まぁ、この点は手前味噌で恐縮ですがカワハギ斬-ZAN!!-TypeHHで上手くクリアすることができた部分です。

奇跡的に絶妙なバランスで両立出来た素晴らしいロッドだと自負しています(上手くいったのはまったくの偶然ですが(笑))

参考 : 奇跡の手感度は偶然から生まれた

ブランクスの選択

前述の通り、現在市販されているカワハギ竿のブランクスのおそらく100%がカーボンチューブラーを使用して作られています。

カーボンチューブラーは中空ですから構造上反響しやすく普通のシグナルの伝達はどれも良いと言えそうです。

では擦過シグナルはどうか?

これは各ロッドメーカーのレシピとも言える部分で企業秘密にもなってくると思いますが、端的に言えば

○高弾性カーボン = カーボン繊維の含有率が高い(繋ぎとなるレジンが少ない) → 硬いので高周波振動が伝わりやすい

と言う図式になります。

もちろんそれだけでは無いから竿作りは難しいのですが、ザックリと言えばこんな感じ。

もちろんこれも良く曲がる物より、曲がり難いものの方が伝達が良いのは穂先と同じです。

手感度釣り用『擦過シグナル』特化ロッドとそうでないロッドの違いの実際

先に触れましたが、グラスやチタン合金の穂先が擦過シグナルを一切察知出来ないか?というとそんなこともありません。

ただ手感度の高周波振動を、より特化して察知できるようにしようと設計すると、材質としてはカーボンが圧倒的に適している訳で、その差は主にシグナルの出始めるタイミングの違いとして現れてくることが多いです。

分かりやすく具体例を挙げてみましょう。

仮に、カワハギがアサリ餌を齧り始めてから完食するまでの時間が20秒あるとします。

カーボントップを搭載した硬調の手感度釣り特化ロッドと、グラスソリッドやチタン合金を搭載した硬調のロッドでは、この20秒間のどこから擦過シグナルを察知できるのか?

これを私の体感から言うと、

  • カーボン = ほぼファーストタッチの0秒地点から、遅くとも5~6秒経過辺りまでに察知できる
  • カーボン以外 = 10秒経過以降、遅いものは15秒程経過してから察知できる

といったところです。

もちろん穂先以外の要素も絡んで来ますので一概には言えませんが、グラスやチタン合金素材は概ね察知が遅れ、場合によっては全く察知出来ないこともあります。

そして、これはシグナル察知後の時間の余裕の有無と言い換えることができます。

シグナル察知から20秒の時間があるのか?

それとも残り10秒以下なのか?

どちらが有利かと言えばもちろん前者です。

これが手感度用、擦過シグナル特化型のロッドの大きなアドバンテージなんですね。

なので本格的な手感度釣りを楽しみたいのであれば、カーボントップ以外のロッドを使用して少ない時間で不利な勝負をするより、擦過シグナルを拾うことに特化したロッドを使ってカワハギの動きをより早く掴み優位に立つ方が利に叶っているわけです。

 

 

まとめ

と言うことで、今回はカワハギの手感度をより狭義に捉え、擦過シグナルという言葉で区別し、この擦過シグナル発生のメカニズムと、察知するためのロッドの条件について深掘りしてみました。

もちろん私自信、擦過シグナルを捉えることこそが万能の杖、だなんて今ではこれっぽっちも思っていません(過去にそう思ってた時期はありますが汗)し、当然それ以外の釣り方も使って1日の釣りを組み立てています。

こんな風に様々なアプローチで真に迫っていくことができるのもカワハギ釣りの魅力のひとつ。

なので『擦過シグナル』を使わずに組み立てを行い、確りと数字を出すことももちろん可能です。

ただ個人的に

『とにかく擦過シグナルによる手感度釣りは超面白い』

ってことが言いたいだけなんですね(笑)


また、今回材料についてあれこれ記述しましたが、あくまで1ロッドビルダーの考察であり、材料工学や科学、物理の専門の方から見たら間違いがあるかもしれません。

そんな時は今後のためにも是非ご指摘いただけると有難いです。

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